アンダーザローズ

No.384
カテゴリ:ドラマ・サスペンス
オススメ度10 ★★★★★★★★★★
著者:船戸明里
出版社: 幻冬舎コミックス
発売日:2003/10/1(1巻)
巻数:1~10巻以下続刊

「なんで笑ってるんだ」

最新10巻が出ました!
待ちにまった2年ぶり。

この作品は本来なら完結してから語るべき作品。
でも、それにはまだ十年以上かかってしまいそう!?

ということで、このタイミングでご紹介しちゃいます。

19世紀の英国が舞台。
名門貴族、ロウランド家をめぐる一大叙事詩。

緻密な伏線。
魂の奥底までも描き出すような心理描写。

他に類を見ない、稀有な筆力。

それがこの「アンダーザローズ」です。

あらすじ

19世紀英国。
没落貴族の公爵家の娘・グレースは愛人のロウランド宅で謎の死を遂げた。
彼女の息子ライナスとロレンスは実父・ロウランド伯爵に引き取られるが、ライナスは母の死にロウランド家の人々が関わっていると疑念を抱く。
真相を究明しようとするライナスの孤独な闘いが始まる…。


感 想

まず言わせてください。

この漫画はすごい!

最近、某ランキングのせいでこのセリフが軽くなってきてます。
まさに、こういう作品のために使って欲しい言葉。

星10をつけてオススメしたい作品は数あれど。
さらに、その中でオススメ度の優先順位をつけるなら?

トップ10に入れてしまいたいほど。

それくらいすごいんです。

19世紀英国の上流階級の暮らしを描いた作品といえば、森薫先生の『エマ』が有名です。

同じ時代背景、同じ貴族社会の描写。
でも、その世界観は180度違います。

『エマ』を陽とするなら『アンダロ』は陰。

かつての貴族社会のリアル。
救いようのないほど混沌とした人間模様。

何が善で、何が悪か。

作品の深淵の中で、暗い輝きを放つ登場人物たち。
それぞれの過去、現在、未来が描かれていきます。

面白い、なんて簡単な言葉では表せない。
心の奥にジクリと残る。

これは読まなきゃ、勿体ない。


アンダロの世界観。

19世紀英国の貴族社会。
使用人を100人近く雇用するような大貴族の物語。

その価値観、倫理観はまったく理解できません。

家の存続。
社交界での体面。
家の主人と使用人たちの関係。

綺麗に咲いているバラの花の下、その土のように。

もう、ぐっちゃぐちゃです。
ドッロドロです。


ロウランド家の相関図。

アーサー・ロウランド伯爵。
貴族であり医者でもある。
子煩悩であり、家族思い。

アンナ。
伯爵夫人。正妻。
館の一室にこもり、ウィリアム以外とはほぼ交流しない。
精神を徐々に病んでいく。

アルバート。
ロウランド家の長兄。
頭脳明晰、社交性を備えソツのない性格。
極度の女好き。

ウィリアム。
次男。容姿がもっとも若い時の父と似ている。
寡黙で冷静。常に母のアンナに寄り添う。
しかし心に大きな闇を抱える。

グレゴリー。
三番目の息子。
生真面目な性格。

アイザック。
四番目の息子。
料理が好き。


グレース・キング。
ロウランド伯爵の最初の妾。
没落貴族の娘。派手で社交的。
ある日、ロウランドの館で転落死する。

ライナス・キング。
グレースの生んだ、ロウランドの五番目の息子。
母の死によって、弟ロレンスとともに、ロウランド家に引き取られる。
母・グレースの死に疑問を抱いている。

ロレンス・キング。
グレースが生んだ、ロウランドの七番目の息子。
常に兄の後を追っかけるお調子者。


マーガレット・スタンリー。
医者であり、ロウランド伯爵の2番目の妾。
領地内の別宅で庶民的な生活をしている。

ヴィンセント.スタンリー。
スタンリーが生んだロウランドの六番目の息子。
母の手伝いをよくする良い子。

ディック・スタンリー。
スタンリーが生んだロウランドの八番目の息子。


モルゴース叔母様。
アーサー・ロウランドの姉。
ロウランド家のお目付役。

レイチェル・ブラウン。
ロウランド家に家庭教師として雇われる。
敬虔なクリスチャン。
倫理観の崩壊したロウランド家で孤軍奮闘する。

この登場人物の多さよ!!

それなのに。
ただの一人もモブがいない。

それぞれが心に闇を抱えながら生きている。

この心の暗い部分、壊れた倫理観の描き方が秀逸すぎる!


誰が主役なのか?

1巻には「冬の物語」と副題が付いています。
2巻以降は「春の讃歌」となっています。

おそらく今後、夏の章、秋の章と続くのでしょう。

1巻ではロウランドの庶子(正妻以外の子供)、ライナス・キングが主役。

ロウランド家に引き取られた直後の彼の目線で物語は進みます。
そうすることで、客観的な視点で、このロウランド家の歪さを描き出していきます。

2巻からはロウランド家の家庭教師となるレイチェルの目線で描かれます。
敬虔な淑女である彼女には、ロウランド家の内情はまさに異常。

ただし声高に主張することもできない家庭教師という身分。
主人と使用人の関係。

まだ幼い子供達のために、孤軍奮闘する彼女も…。

やがてこのロウランド家の毒に飲み込まれていきます。

この過程が鳥肌が立つほど恐ろしい。

正直、この作品を読んでしまうとね。。

使用人と主人とのラブロマンスを描いた『エマ』が、おままごとのようやっすいファンタジーに思えてしまいます。

そうだよね。リアルはこうだよね、、みたいな。


最新刊の10巻を読みました。

(2017.12.21)

春の章はまだ続いています。

表紙は正妻のアンナ。

もう、精神のバランスを崩したこの表紙…。

正妻アンナの隠してきた秘密。
ここにきてようやく。

点と点が繋がります。。

とにかく、すごい巻でした。

春の章は内容が濃いい。

家庭教師レイチェル目線をメインとしながらも、対立する次男の目線、主人のロウランド伯爵の目線、そしてその過去。

さらに正妻であり館の女主人アンナの目線、そしてその過去と。

目まぐるしく物語の主人公が変わり、その過去と現在に至るまでの歴史を描いていきます。

ロウランド家という混濁。
幾層にも積もっていく澱のような恨み。

深く絡み合ってゆく人間模様が素晴らしい。


究極のネタバレ。

実は本作。

究極のネタバレ本が存在します。

本作『アンダロ』の前に先立って発表された1巻完結の短編作品。

『Honey Rose』
*2007年に刊行された合本版。

なんとロウランド家の10年後が描かれています。

なので!
本作の登場人物たちの行く末をドキドキしながら読みたい方は。

読んではいけません。

あの人がこうなって。。。
あれとあれがこうなって。。。
ええ!アイツがこうなるの???
すべての答えがわかってしまいます(笑)

『アンダロ』は、この10年後の結末に向かって描かれています。
ですので、どれほどキャラに感情移入しようと、結果は変えられない。

そこが悲しくもあり。

ただ。
本作とこの『Honey Rose』を読み比べると。
キャラの変貌が面白い。

『アンダロ』の世界で生き生きと走り出し「これHoney Roseにつながるのか?」と、その性格の変わりっぷりに危惧を覚える登場人物が多数。

その変遷がどのように描かれるのかが、一つの楽しみ。

『アンダロ』は、先にネタバラしをしておき「何故そうなったのか?」までを緻密に描いていく物語なのです。


さて、評価は?

とにかく緻密。

春の章ではやや冗長に感じる部分もあります。
また登場人物が多く、一読しただけでは、読み落とすような表現もあったり。

ですが、じっくり登場人物たちの光と影を描くからこそ、物語が深化していきます。
何度か繰り返し読むことで、その深さを再認識してしまいます。

ささいな表情や台詞すべてに意味があり、含んだ裏事情が見え隠れしてきます。

その心理描写がなんとも緻密。

巻を重ねるごとに、その闇を濃くしていく世界観。

素晴らしすぎる!の【星10】でオススメします。

まだ未読の方は是非!

そして次の巻はいつになるのか!?
やきもきしながら待つお仲間になりましょう!

1巻から読む
(2003〜)

*本作は著者の船戸先生のご指摘により、作中のチャプター画像は削除した状態で投稿させて頂きます。

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