「子供を殺してください」という親たち

No.387
カテゴリ:ノンフィクション
オススメ度8 ★★★★★★★★☆☆
著者:原作:押川剛 作画:鈴木マサカズ
出版社: 新潮社
発売日:2017/8/9(1巻)
巻数:1~2巻以下続刊

「子供を殺してくれませんか…」

ショッキングなこのタイトル!

これはフィクションではありません。
様々なメディアで取り上げられた押川剛氏の衝撃のノンフィクションのコミカライズです。

それがこの「「子供を殺してください」という親たち」です。

あらすじ

家族や周囲の教育圧力に潰れたエリートの息子。
酒に溺れて親に刃物を向ける男。
母親を奴隷扱いし、ゴミに埋もれて生活する娘…。

現代社会の裏側に潜む家族の闇と病理を抉り、その先に光を当てる――!!


感 想

まず。

すべてが実話ということに驚き。

この作品は「精神障害者移送サービス」の会社を運営している、原作者である押川剛さんの体験談です。

プライバシーに配慮し、細かいところや時系列は変えているようですが、それでも描かれているのはオールリアル。

現場のすべて。

その内容たるや!

これは、すごい。

最初はよくあるノンフィクション体験談のエッセイ漫画ような緩い内容を予想していました。

まったく違います。

漫画的なご都合主義など入る隙間などない。
ハッピーエンドにもならない。
作中では問題解決はしていない、むしろ長期化の様相を呈して終わる。

だからこそ。

エピソードの一つ一つに、リアルが放つ凄みがあります。

描くのは現代社会の裏側。
家族という最も身近なコミュニテイに隠された闇。

読んだ後に考え込んでしまう作品です。


トキワ精神保健事務所の人たち。

押川 剛。
(株)トキワ精神保健事務所の所長。
家族の依頼を受け、患者と病院を「繋ぐ」役割を担う。

実吉あかね。
押川の助手。主に録画などを担当する。


30人に1人いる。

3920000人。

これ、なんの数字かわかりますか?

日本における精神疾患の患者数です。

日本の人口の率で割ると、およそ30人に1人という割合になります。

これマジですか?

恐ろしい割合です。

クラスに一人は精神を病み通院している人がいる。
そんな数字なんです。

そして、これはあくまで「ちゃんと病院に」かかっている人の数。
実は、水面下ではもっとたくさん存在します。

本作の原作者であり、主人公でもある押川氏。

この「病気であるという認識」つまり「病識」がない人を病院へ説得して連れて行く、というお仕事をしています。

精神疾患と一口に言っても症状は様々。

作中で「最難関」として登場する人たちは、すべてこの「病識」がありません。

日本の医療では「本人の意思」が尊重されるために、治療を拒否する人を無理やり病院に連れて行くことはできません。

それがたとえ家族の依頼であっても。

患者本人が「俺はまともだ!病院など行かない!」と言ってしまえば、警察であろうと無理やり連行はできません。

結局、家族も本人を説得できず、諦め、放置してしまう。

やがて疾患が重症化し、取り返しのつかない事件を起こす。

大きな事件が起こって初めて、警察は動けるのです。

なんともやるせない。

閉塞感の充満した歪な家族の姿を、本作は赤裸々に描いていきます。


さて、評価は?

特筆すべきは、コミカライズのクオリティ。
漫画的に非常に完成度が高く、エピソードに引き込まれます。

ノンフィクションのコミカライズと知らなければ、精神障害を扱ったフィクションかと思ってしまいます。

事実は小説より奇なり。

本作で扱う「精神障害者移送」というサービス。
そんな言葉、初めて知りました。

そして。
治療を拒否する患者さんを、適切な医療機関や福祉へつなげる専門家がいない。

そんな現実も知りませんでした。

そう考えると。。

昨年も凄惨な事件がいくつもありました。
重大事件を起こした人は、おそらく何かしらの精神疾患が確認されるはずです。

適切な治療を早くに受けていれば、事件を起こさずに済んだケースもあるかもしれません。

巻末に押川氏のコラムが掲載されています。

「現場の声」と題したそのコラムには、まさに最近の事件についても触れられています。

コミカライズにあたって。

「社会に伝えたいことがあって走り出した」


そう押川氏はこの作品のことを語っています。

なるほど…。

現場の思い、声が詰まったこの作品。
【星8つ】でオススメです。

ぜひ読んでみて頂きたい。

1巻から読む
(2017〜)

原作「子供を殺してください」という親たち
著者:押川剛
(2015)


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