No.386
カテゴリ:ノンフィクション
オススメ度6 ★★★★★★☆☆☆☆
著者:いしいさや
出版社: 講談社
発売日:2017/12/20
巻数:1巻完結
「わたしのお母さんは神様を信じてる」
「聖書の御言葉をお伝えしております…」
土曜の昼下がり。
突然にやってくる宗教の勧誘。
誰もが一度や二度は経験があるはず。
その勧誘を行う某宗教の家に生まれた、一人の少女が赤裸々に内情を綴った本作。
それがこの「よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話」です。
あらすじ
交際禁止、漫画禁止、国歌禁止、輸血禁止etc…禁止だらけの生活。
新興宗教の二世信者の少女、さやちゃん。
母親や周りの信者から厳しく監視され、学校でも浮いた存在になっていた…。
さやちゃんの目を通して描かれる、衝撃の告白漫画。
わたしのお母さんは神様を信じてる…。
虚ろな表情で俯く、一人の少女。
そんな寒々とした冒頭シーン。
これは『エ◯バの証人』の信者の家庭に生まれた少女のお話です。
お母さんが熱心な信者。
その娘である著者は、物心つく前から、その教義に従って生きるしかありませんでした。
小学生のさやちゃんの目を通して描かれる信者の家庭の日常。
信者以外の子と仲良くなってもダメ。
誕生会もダメ。
クリスマスもない。
週のうち4日は宗教の勉強会、集会、布教活動、奉仕活動。
信者仲間を兄弟姉妹と呼び、限られた狭い人間関係の中で生きる。
これがさやちゃん家の「普通」なのです。
一般家庭からはかけ離れた、その暮らしぶり、その常識。
読んでみると驚愕すること必至です。
エホ◯の証人って?
<エ◯バの証人とは?>
キリスト教系の新宗教。
神の王国という国境なき世界政府の確立を支持している。
熱心な伝道活動を行うこと、輸血を拒否すること、などで知られている。
*wikipediaより
これは虐待です。
信者にとって。
聖書に書いてあることが絶対です。
すべてにおいて親に従順であることが義務付けられています。
奉仕という布教活動に無理やり付き合わされる。
少しでも不平を漏らそうものなら…。
鞭打ち!
いつの時代やねん!?って思うでしょ?
これ、平成の話なんですよ!
小学生の女の子が生尻出さされて、ベルトで打たれるとか!
虐 待 で す。
集会所でぐずって泣いた小さな子にも容赦ない愛の鞭。
怖いのは、信者の母親すべてが、それを「子供のため」だと心底信じていること。
恐ろしい。。
何度も書きますが…。
これは明らかな虐待です。
禁止事項のオンパレード。
『エ◯バの証人』には色々な禁止とされる行為があります。
「輸血をしてはいけない」は特に有名です。
ですが本作で描かれているのは、子供の目線で辛かった禁止事項の数々。
誕生会、クリスマス会は禁止。
クラスで盛り上がってる時も教室の外で一人待機。
これは辛い。
国歌や校歌の斉唱は禁止。
もちろん起立なんてしない。
目立つよなぁ。。
争いごとが禁止のため、体育祭等も禁止。
みんなが練習中、一人で待機。
まさに針のムシロ。
ねぇ、これ、、。
辛すぎますぞ。
作中で、著者がひどいイジメにあうなど描写がなかったのがせめてもの救い。
極力、目立たず空気のように過ごしてきたのか。
それともイジメの対象にもならないほど遠巻きにされていたのか。
真相はわかりません。
ただね…。
多感な幼少期をこのように過ごさざるをえなかった著者に同情を禁じえない。
二世信者の問題。
昨年、刊行された「カルト村で生まれました。」
本作と同じく二世信者である著者がヤ◯ギシ会の村で生まれた過去を描き大反響を呼びました。
ほんわか絵日記のように淡々と綴る中に、戦慄してしまうほどの歪な日常が描かれていました。
この二世問題は非常に根が深い。
入信した時には立派な大人であり、自分で判断、決断をした両親は仕方ありません。
だが、しかし!
その環境下で生まれ育った子供。
いわゆる二世信者は何も選択していません。
いや、できていません。
できるわけがないんです。
その世界しか知らないんですから。
生まれた時から偏った教えを刷り込まれ、それがすべての狭い世界で生きている。
世間を何も知らないま「これが普通である」と思い込まされ育っていく。
言葉は乱暴ですが、言ってしまえば「洗脳」です。
本作や「カルト村で生まれました。」を読んで感じる怖さは、まさにここ。
本人たちが無意識、無自覚で信じ込まされていたもの。
義務教育の過程に進み、他人と関わることで、やがて自分の置かれている環境が「おかしいのでは?」と少しづつ気づき始める。
情報化社会のこの時代。
昔のように情報を規制するには無理があります。
客観的な第三者の意見がたやすく目に入る時代です。
本やTV、インターネット、etc…。
「自分たちが異常である」と必ずどこかで気づきます。
少しでも気づいたその時に。
宗教を捨てる選択ができるかどうか。
親の支配を断ち切ることができるのか。
おかしいと思いながらも、断ち切ることまでできるのは少数派ではないかと思います。
だってそれは、今まで親と生きてきた時間すべてを否定することになるからです。
著者も悩み、葛藤しながらも母親と違う道を生きる選択をします。
それが高校生の時。
でも。
そこから逃れられても、教えを裏切ったという罪悪感はずっとついて回ります。
その罪悪感のために、著者はやがて精神のバランスを崩してしまいます。
そこに至る過程が、なんともリアル。
これぞノンフィクション。
わざと奔放に振る舞い、性さえも軽く扱ってしまうようになってゆく…。
性行為をした後に。
「こんなことしただけで 神様は怒って人を殺すのか…」
そう独白するさやちゃんが痛々しすぎます。
さて、評価は?
本作は元々、著者が細々とSNSで公開していた漫画が元となっています。
やがてそれが反響を呼び、出版社の目に止まり、連載に至った模様。
作画は、漫画として読むとまだまだ拙い。
人物も前向き、横向きからの構図ばかりで、お世辞でも上手いとは言えません。
でも、エッセイ漫画ってこういうもんだと思います。
作画ではなく、伝える内容が全て。
わかりやすく要点がまとめられており、スルスルと読めてしまいます。
「カルト村で生まれました。」の絵日記調よりは、はるかに読みやすいし面白い。
ということで【星6つ】でオススメします。
機会があれば是非、一読して頂きたい作品です。