No.294
カテゴリ:ドラマ・ヒューマン
オススメ度5 ★★★★★☆☆☆☆☆
著者:榎本ナリコ
出版社: 双葉社
発売日:2012/12/12(1巻)
巻数:2巻完結
「誰だって…ひとりだわ」
最近、電子書籍のバナー広告でよく見かけます。
声の出ない少年がすがるような目で見る1シーン。
その数コマの内容がとっても気になったんです。
で、早速読んでみました。
それがこの「力の在り処」です。
あらすじ
ひきこもり、緘黙児童、リストカッター、DV……。
現代社会ではじかれ、虐げられた弱者たちが仲間”として集うとき、”特別な力”がうまれる!!
「榎本ナリコが人間の心のさらに深い奥の部分を描く超異色作!」
なんて紹介文。
おお!榎本ナリコ先生。
90年代のスピリッツに、女性作家ながらオムニバスのエロティック作品を連載し異彩を放っていました。
最初に読んだのがその「センチメントの季節」で、もう20年近く前。
青年漫画にしては線が細く、女性作家ならではの繊細なタッチ。
「薄幸そうな少女の顔」が印象的でした。
そのタッチは全く変わらず。
本作でもしっかり出てきます。
ずっと榎本先生の作品は読んでいなかったのですが…。
こうして久しぶりに手に取ってみて。
うううむ。
思ってたんと違ーーう!!
この作品。
引きこもり、虐待等々。
家族の問題、社会問題を扱ったヒューマンドラマかと思ったんです。
力 = 超能力。
えええ? そっち!?
とりあえず、予想していたのとは180度違う方向でした。
違和感を感じながら、読み進めることに。
力ある人たち。
向井勉。
受験に失敗。引きこもり。
マコト。
人前でしゃべることができない児童。
石野有花。
リストカットを繰り返す少女。
サトル。
力のある者たちを探し集めている。
それぞれに「ある力」あります。
それは一人では発揮できず、力ある者が3人以上集まると発揮できるという代物。
やがて彼らは自分たちを「集会者」と名乗ります。
力の在り処?
最後まで読んでみて。
なるほど。
こうなるのか。
この「力の在り処」というタイトル。
これが大きな謎かけとなっています。
ラストにその謎が明かされるという構成。
いわゆるどんでん返し的な仕掛けが待っています。
このオチは予想できませんでした。
やられた。
この作品はやはりこの「オチ」の捉え方です。
これをよしとするのかどうか。
僕としては少し強引な結末だと感じました。
「ネタばれ」してはいけないので詳しくは書けませんが…。
いまいち登場人物の動機と説得力に整合性を感じられなかった。
ですが、その結末に至る裏切りっぷりは面白かった。
さて、評価は?
期待していた内容とは違ったせいか。
少し不満の残る読後感。
スッキリとはしませんでした。
今回はいわゆる社会的な弱者が主人公です。
ですが、あまりそこは掘り下げていかない。
あくまで「どんでん返し」ありきの構成で進んでいくため、人間ドラマの部分を削ってしまった。
社会的弱者を扱っている割には、その人たちに超能力を与えてしまったため、ドラマ性ではなく、ファンタジー性が色濃く出てしまいました。
まぁ、それもすべてが仕掛け、伏線なわけですが…。
でもやっぱり。
テーマがブレてしまった印象は拭えません。
それぞれの心の問題にもっと焦点を当てて欲しかった。
作品全体の仕掛けは面白かったですが、それだけかも。
なので、ここは読んでみたわ、の【星5つ】です。
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