No.269
カテゴリ:ノンフィクション
オススメ度7 ★★★★★★★☆☆☆
著者:平沢ゆうな
出版社: 講談社
発売日:2016/6/23(1巻)
巻数:1巻完結
「ハゥロング? ユ~ウォント??」
こ、これは!?
びっくりする漫画に出会いました。
タイを舞台にした、著者の体験記。
まるで旅行記のようなライトさ。
しかしそこに描かれているのは壮絶な変身の物語。
なんと著者自身がタイで性転換手術を受けたその記録をまるっと描いた作品。
それがこの「僕が私になるために」です。
あらすじ
身体的にも法律的にも女性になるために。
主人公・平沢ゆうなは性別適合手術を受けにタイへと旅立つ。
しかし、女性への道のりは想像していた以上に“痛かった”!!
性同一性障害(GID)当事者の作者が男性から女性になる過程を詳細に描いた実録エッセイ!
TS(transsexual=性転換)を扱った作品はたくさんあります。
でも!
著者自身がリアルに性転換手術をした記録を描いた漫画。
これは今までなかったんじゃないかと。
手術を受けた本人だからこそ描ける表現。
そして真実。
「そこまでするの!!」と、その苦労に絶句。
改めて「性転換手術」の大変さを再認識します。
著者は死ぬほど不安だったに違いありません。
慣れない異国の地。
たった一人で臨む手術。
その心中いかばかりか…?
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おや、明るい(笑)
きっと意識してだと思いますが、全編コメディタッチ。
とっても読みやすい。
そして面白い。
テンポも良く、スイスイと読めてしまいます。
股間がひゃっ!
生々しい作画はありません。
でもね。
痛い痛いイタァァィ!!
ってなります。
手術後の幻肢痛。
何と股間にもあるのです。
その痛みはまさに。
ひゃっ!!
人口に作った膣はいわば人体にとっては傷口。
ほっておいたら自然治癒でふさがってしまう。
そのふさがってしまうのを防ぐのが。
ダイレーションという穴がふさがらぬように棒を入れておく治療。
要するに。
深い傷口に棒をグリグリ。
ひゃっ!!
これぜったい痛いヤツ。。。
もうこのエピソードだけで股間がきゅうきゅうしてしまいました。
たった6文字の重み。
GIDという言葉をご存知ですか?
GIDとは「性同一性障害」のことです。
日本語で表すとたった6文字。
でもその6文字で死ぬほど悩み、人生に絶望さえしてしまう人が確かにいるのです。
本作は性転換手術がメインです。
しかし、その「性別適合手術」に至るまでの治療の過程。
GIDと診断されてからの道のりも描かれています。
ホルモン治療のこと。
心理的カウンセリングのこと。
そしてお金のこと。
相当に辛い道のりだったことは読めばわかります。
だがしかし。
その重さを打ち消すような。
タイの現場の明るさ。
だからタイなのか!
って妙に納得してしまう。
この底抜けの明るさにはきっと救われますよね。
著者の描きたかったこと。
「普通」って何だろう?
作品の後半で著者は問いかけます。
全編ライトに描いてきた著者の、その心情を吐露した唯一の箇所。
男から女へ。
裁判で戸籍の変更を認めてもらうエピソード。
突然ですが。
ニューハーフという言葉をご存知ですか?
その昔、男で女の格好をし、さらに手術を施した方をそう呼んでいたのです。
実は僕。
学生時代に有名な大阪北新地の某ニューハーフバーで黒服をしておりました。
そこは女になった元男の方たちの花園。
ガチの綺麗どころばかり集まったトップクラスのバー。
それはそれは。
まるで芸能人かと思うほどのお姉さんがたばかり。
そこで働いていた人たちは、なんともバラエティ豊か。
女になった男=ニューハーフ。
男になった女=オナベ。
ゲイ、レズ、バイセクシャル。
そこで知ったのは。
性というのは、こんなにも多様な形があるのかと。
僕は当然ノーマルでございます。
20歳そこそこの健康な「どノーマルな男子」には、大いなるカルチャーショックでした。
そこでは一般に「普通」と言われる人の方がマイノリティ。
何が普通で、何が普通じゃないのか。
若い時にそれを身を以って知れたことは、非常に大きかったと今では思います。
そして、そういう人間の多様性を知る機会はきっと必要だと思います。
自分と違う存在をあるがままに受け入れる。
もっとそういう社会になればいいのに。
好奇の目にさらされ続けた著者が問いかけたこと。
それは、一方的な価値観を持つ事への疑問なのかもしれません。
さて、評価は?
これはHow to 本ではありません。
男から女へなるための、指南書でもありません。
あくまで体験記です。
そのエンターテイメント性に終始した描き方にはとても好感が持てました。
ということで【星7つ】でオススメです。
ノーマルな人こそ。
ぜひ手にとってみて頂きたい作品です。