ロッタレイン

No.367
カテゴリ:ドラマ・ヒューマン
オススメ度10 ★★★★★★★★★★
著者:松本剛
出版社: 小学館
発売日:2017/8/10(1巻)
巻数:3巻完結

「来ないで。」

寡作ながら、その圧倒的筆力で名作を生み出す松本先生。

その新作が出ました!

血の繋がらない義理の妹ですと?
儚いひと夏の恋ですと?

もう、これだけでソワソワします。

これは危うそうだ。
またも名作の予感。

それがこの「ロッタレイン」です。

あらすじ

仕事・恋人・母親…。
全てを失った一(はじめ)の前に現れたのは、14年前 自分と母を捨てた父と、初めて会った血のつながらない義妹・初穂。
一は、父と、初穂、初穂の母と弟とともに長岡で一緒に暮らすことになるが…!?


感 想

読み終わって。

はふうぅ。

と大きく息を吐きました。

完・璧!
としか言いようがない。

ストーリー、作画、キャラクター。
構成、演出、そのセリフ。

すべてが魅力的。
そして無駄がない。

3巻できっちりと完結します。
その潔さ。

これぞ珠玉の名作です。


ロッタレインな人たち。

玉井一(はじめ)。
バスの運転手をしていたが、パワハラから鬱を発症。
重大な事故を起こし失職。30歳。

山口初穂(はつほ)。
一の義妹。13歳。
一に強い敵意を見せ、厳しい態度を取る。

玉井貴澄。
一の実父。14年前に一と妻を捨て出て行く。
その後、美子と出会い一緒に暮している。

山口美子(よしこ)。
未入籍のまま14年間、貴澄と暮らす。
彼と出会ったときには初穂を身篭っていた。
一を快く受け入れる。

山口澄也。
一と腹違いの弟。姉にべったり。
貴澄と美子の間に生まれた子。

奥野。
初穂に想いを寄せるクラスメート。
やがてその想いが暴走していく。

小出蛍子。
近所のコンビニの店員。
一に好意を寄せ、仕事の世話をする。


あなたならどうする?

男性諸氏。
想像してください。

自分は鬱でケガをして無職です。

そこに自分を捨てた父が現れます。
そして、一緒に住もうと提案します。

どうしますか?

今更ふざけんじゃねぇ!と。

突っ撥ねますか?

でもね。

その傍らには、見知らぬ美少女。
自分の妹だと。

義妹と同居だと…?

どうしますか?

うん。

いくよね!

いやっほう!!
美少女と同居ーーー!!
いくいく〜〜!!
どうせ、無職だし!

って!

そんな下衆なメンタルではありません。

主人公はパワハラによる事故で無職なってしまいますが、本来は真面目で繊細な青年。

真面目がゆえに、義妹へのインモラルな気持ちに悩み、葛藤します。

モラルとインモラルの境目。

その境界が曖昧になっていく。

その心の移り変わりの描写がものすごく素晴らしい。


印象的なその唇。

相手は血の繋がっていない妹。
そして13歳。

色々、危うい。

主人公は30歳。
必死で「良い兄」であろうとするのですが…。

この初穂が13歳にして、なんとも危うい色香を漂わせます。

印象的なのが、その唇。

初めての登場シーン。
瞳より、唇に目がいってしまいます。

少女らしからぬ表情が素晴らしい!

そして同居するようになってから。
その唇の印象的な描写が何度か出てきます。

弟の切った指を舐めてあげる。

!!!!!!!

この顔!

13歳の義妹へ「女」を感じ、戸惑う主人公。

心がソワソワしてしまいます。

背徳感を抱えながら。
だんだんと惹かれていく。

もう、この描写が秀逸すぎる!


印象的なそのシーン。

お互いに惹かれていく二人。

なんやかんや事件もあり。
ぐっと距離が縮まっていきます。

そして決定的なこのシーン。
酔って帰った一が、つい初穂を抱き寄せてしまう。

そこを父親に見られる。

おおう!!

そして畳み掛けるように。

引き放そうとする父。

まぁ、確かにそうなんだけど。

お前が、呼んだんちゃうんかい!
って言いたくなるところ。


そして境界を超える。

お互いの気持ちに気付きながらも。

踏み込めない二人。

「兄妹」「年の差」「未成年」という。
超えてはいけないモラルの境界。

言葉にできない想い。
言葉にしてはいけない想い。

タイトルの「ロッタレイン」。
直訳すれば「いっぱいの雨」。

夕立にずぶ濡れになりながら、雨の「中と外の境目」を目の当たりにした初穂。

そこで自分の気持ちに素直になる決心をします。

雨の中と外。
境の中と外。

この決意へ至る描写の比喩が詩的すぎる!


そして結末は?

紆余曲折ありまして。

またも大ケガをして入院してしまう一。

そこへ見舞いに訪れた蛍子。
彼女は一と初穂の関係に気づいています。

そこで、このセリフ。

六年とは?

初穂が大人になるまでの時間です。

少女が大人へ変わるその時間。

一がただそれを待つ時間と。
初穂が変わっていく時間は。

まったく意味が違うと。

すげえな。

少女が大人になるまで待つ決心を固めた男に。
この一滴の毒のセリフを置いて行く。

ほんこれ。

そして。
初穂の登場です。

最初のシーンと同じく。
最後のシーンも病室。

最初のシーンでは「来ないで」でした。

あまりに象徴的な対比です。

お互いの気持ちが通じ合った後です。
二人はどんな選択をするのか?

結末はここでは書きません。

二人の行く末を様々に想像してしまうラスト。
この終わり方がまた素晴らしい。

ぜひ本編で確かめてください。


さて、評価は?

元は2014年から『月刊IKKI』で連載が開始。
しかし同誌が休刊してしまいます。

それでも発表を『ヒバナ』に移し再開。
2017年の6月に完結しました。

そして、同年8月から3ヶ月連続で1巻づつ刊行となりました。

この名作が埋もれず、完結を迎え単行本化したことは嬉しい限り。

とにかく素晴らしい作品。
その一言です。

【星10】でオススメします。

ぜひその手にとっていただきたい!

全3巻を読む
(2017)


【その他の 松本剛 作品】

ラストマウンド
(2013)

しずかの山 全3巻
(2010〜2012)

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(2007)

北京的夏
(1993)

すみれの花咲く頃
(1991)

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