No.194
カテゴリ:ノンフィクション/1巻完結
オススメ度8 ★★★★★★★★☆☆著者:今田たま
出版社: ぶんか社
発売日:2015/11/16
巻数:1巻完結
「私たち姉弟にできたのは 泣くことだけだった」
体験談というのは。
時にフィクションには決して出せない凄みを放つ。
それは描かれていることが紛れもない真実だから。
「家族がいなくなった日 ある犯罪被害者家族の記録」
これは犯罪被害者の娘である著者が綴った体験談です。
あらすじ
ある日突然、強盗事件の被害者となり殺されてしまった父親…。
理不尽に家族を奪われ、遺された家族たちはPTSDによる鬱病、体調不良による退職などに見舞われる。
やがて犯人は逮捕され裁判に出廷する。
周囲や警察のサポートでどん底の状態から少しずつ立ち直っていった「殺人事件被害者家族」が、当時の状況をありのまま描いたノンフィクションコミックエッセイ。
リアルすぎる。
いたたまれない。
決して大きな事件ではない。
パチンコ店の店長が強盗に襲われて亡くなりましたーー
おそらくテレビのニュースでは5分も放送されないであろう事件。
下手すれば地方局でしか流れないかもしれない。
社会は毎日、凄惨なニュースを流しています。
日々起こる一つ一つの事件に眉をひそめる事はあっても、すぐにまた別の事件が起こる。
一つ一つの事件への関心は薄れ、やがて忘れてしまう…。
人というのはそんなもの。
当事者にならなければ。
お父さんのご遺体が病院から帰される時。
固い棺の中ではダメだ、可哀想。
せめて1日は家でお布団で寝かせてあげたい。
と、著者は遺体を棺に入れずにお布団で寝かせます。
犯人と争った時にできた父の手の傷を労わりながら、そっと六文銭を握らせる。
この、家族だからこその細かい労わり。
読んでいて、胸が締め付けられる。
ただ静かに、淡々と。
事件が起こってからの日々。
著者が鬱になり仕事を辞めざるをえないまでボロボロになっていく姿。
やがて犯人が捕まり。
加害者の親が謝罪を申し入れてくる。
始まる裁判。
加害者の態度と公判の内容に心身ともに削られていく。
そして・・下される判決。
ただ静かに。
淡々と。
日記を綴るように。
1コマ1コマ描いていきます。
だからこそ。
凄みがある。
ニュースでは決して伝えることのない、被害者家族の「その後」。
想像するのさえも難しいほどの苦しみ。
眉をひそめ「大変だったね」と思うことはできる。
でも同情はあくまで同情。
最愛の人を失くした悲しみ。
これは決して他人が理解できるものではない。
と、あらためて気づかされた。
当事者だからこそのセリフ!
作中、主人公である著者の放つセリフは完全に被害者目線。
社会的な、道義的な偽善など入り込む余地などない。
犯人が捕まり、その犯人の親が弁護士を通じて謝罪を申し入れるシーン。
深々と頭を下げる、加害者の親。
そこに「謝られても許せない」と言い放つ。
正論すぎる。
著者は語ります。
だが私はそうは思わない。
多かれ少なかれ親・兄弟と関わって生きる。
愛する人がいれば、愚かな犯罪にたやすく手を染めようなどと思わないはずだ」
これには異論もあるかもしれません。
でも。
確かに。
その人間の「基礎の部分」を形作るのは、紛れもなく親であり、その責任はずっとあるのかもしれない。
「物を盗んではいけない」
「人を傷つけてはいけない」
人として最低限してはいけないこと。
それを心の芯に植え付けておくのは、親の大事な役割だと思います。
これは、ぜひ。
著者は「普通に」笑えるようになるまで8年を費やしています。
気が遠くなる。
ものすごい時間だ。
本作はKindle Unlimitedで無料で読めます。
もっともっと。
たくさんの人に伝わるといいのに、と心から思った作品です。
*この作品はKindle Unlimited無料で読めます。