愛人 [AI-REN]

No.342
カテゴリ:SF/恋愛
オススメ度8 ★★★★★★★★☆☆
著者:田中ユタカ
出版社: 白泉社
発売日:1999/11
巻数:5巻完結

「世界で一番大好きでした」

ちょ、この表紙!!
ロリータなお顔に、このタイトル。

「愛人」ですと???
どんなエッチな漫画なんだ?

と、思ったそこのあなた!

違いますよ!

表紙とタイトルからは想像もできないほど。

ピュアでヘビーで感動的な作品。

それがこの「愛人 [AI-REN]」です。

あらすじ

余命幾許もない少年・イクル。
終末期の患者の精神の救済を目的として生み出された、人造遺伝子人間の少女・あい。
二人の人生最後の日々を綴った不朽の名作。


感 想

この作品は表紙とタイトルで損をしていると思う。

というか、誤解を受けやすい。

この記事を書くために読みなおそうと、机に出してたら。

「こんなエッチな漫画、机に置いとくな!」

と奥さんに怒られました。

おおう。。

違うねん…!
感動系、SFやねん!!

ハイ、そうなんです。

いわゆる「セカイ系」と言われるこのジャンル。

90年代の後期、「エヴァンゲリオン」の後から。
たくさん登場してきました。

本作はその中でも、知る人ぞ知る不朽の名作だと思います。

人類絶滅の前夜を描いた物語。

この重たさ。
この難解さ。
この喪失感。

圧倒的な絶望感と。
そしてあふれる愛。

これぞ、セカイ系!!
あぁ、やっぱり好きだ。

愛人な人たち。

ヨシズミ・イクル。
ある事故で体の半分に「他者」を移植される。
そのために生き延びたが、その他者の浸食で間も無く命が尽きようとしている。
人生の最期に愛人と過ごそうと決意する。

あい。
イクルが市の福祉課に申請し、手に入れた愛人。
元の人格に秘密がある。
やがて通常の「愛人」にはない、特別な変異を起こしていく。

ナギ・ハルカ。
イクルの先生かつ後見人。
遺伝子改良された「スイックス」と呼ばれる人間。
不死身に近い生命力を持つ。

キリト
HITOの代表として突如“竜”に乗って宇宙から現れる。
未知のテクノロジーで瞬時に全世界の大量破壊兵器を掌握する。


愛人[AI-REN]とは?

何らかの理由により存在を許されない人造遺伝子人間。
元はテロの自爆要員、犯罪組織の殺し屋、愛玩用の少女売春婦等々。

それらの人格を封印し、凍結。

新しい人格をインプリンティングして目覚めさせます。

その強制的な使用のため。
愛人の寿命は数ヶ月しかありません。


世界の終わりのバカップル。

この作品は奇跡のバランスで成り立っています。

人類の「種としての寿命」が尽きようとしている遥か未来が舞台。
人類の大半は生殖能力を失っています。

そんな中。

イクルとあいの二人。

究極のバカップル登場です。

物語の大半はこのバカップルのイチャコラシーンです。
甘い新婚家庭を見ているようです。

それはもうイタいほど(苦笑)

かと思えば。

急遽始まる難解なSFシーン。

宇宙船が落ちてくる。

破滅的に人間が死んでいく。

あまりの唐突さに戸惑います。

終わろうとしている世界の片隅で。
死を目前にした二人がイチャコラ過ごす物語。

幸福感と絶望感と虚無感と。

複雑に混ざり合い、そして物語は結末へ。


壮大な伏線。

著者が描きたかったものは何なのか?

それは「愛する」ということ。

文章で書くと安っぽくなってしまいます。

著者はこの「愛すること」の大切さを描くために、なんと4巻分を使ったのです。

人類が終わろうとしている未来を舞台にして。
自然妊娠もなくなり、エッチという行為すらも忘れさられた世界で。

ぐだぐだとひたすらイチャコラを描く。
仲睦まじいおバカなカップルの日常。

手を握る。
肌に触れる。
キスをする。
おっぱいに触れる。

「愛する」という心に伴う自然な行為。

人間が忘れてしまった愛撫。
それが少しづつ、少しづつ、出来るようになっていく二人。

そこへ始まる破滅へのカウントダウン。
5巻からの重たい展開。

遂に迎えるクライマックス。

イクルが死にます。

何ページも続く「黒塗りのシーン」。
あるのは主人公・イクルのモノローグだけ。

薄れていく意識。
思い出す記憶。
湧き上がる感謝の念。

死ぬ寸前に感謝??

たとえ死ぬ瞬間は一人でも。
誰かを強く愛した記憶があれば。

それは一人ではない。

死ぬとはこういうことなんだ。
愛するとはこういうことなんだ。

笑顔で死んでいくイクル。

これには、やられました。

この表情のために。
このラストシーンのために。

その説得力を持たせるために!

ここまでの長い長い道のりは、壮大な伏線だったのだと思います。

文章で書くと綺麗事で安っぽくなるような言葉。
それがスーッと自然に理解できる。納得できる。

見事に「愛すること」の大切さを表現したのです。


さて、評価は?

今ではすっかり「らぶらぶエッチ系成人マンガ」で有名な、田中ユタカ先生。

その初の長編作品だったのが本作。

この作品に込められた熱意は、毎回巻末にびっしり書かれた「あとがき」からもうかがい知れます。

セカイ系とも言えるこのストーリー。
やや独善的とも思えるSF的な設定。

全てをはっきりと説明しきれてはいません。

主人公と混ざった「他者の正体」とは?
ヒロイン・あいの「元人格の正体」とは?

その大事な謎は最後まで明かされず。
回収されずじまいの伏線となります。

他にも感じるいくつかの矛盾点。

でも、それを突っ込もうとは思わない。

なぜか読み進めてしまう。
物語の持つ力に押し流されてしまう。

それでいいのかもしれません。

わかったような。
わからないような。

「答えを自分で考える」要素がある。

そこがいいんです。

作品の完成度に比して、知名度が驚異的に低いこの作品。
超オススメの【星8つ】です。

ぜひ、読んでみて頂きたい。


ちなみに。

嬉しい「愛蔵版(全2巻)」が出ています。

豪華な装丁。
綺麗な表紙。

これなら机に置いておいても怒られませんね(笑)

愛蔵版 全2巻を読む
(1999〜2002)


【その他の田中ユタカ 作品】

笑うあげは
(2017〜)

好きでいっぱい
(2014)

初愛~はつあい~ 全3巻
(2012〜2014)

もと子先生の恋人
(2009)

ミミア姫 全3巻(*Kindle版は全4巻)
(2007〜2010)

愛しのかな 全3巻
(2006〜2009)

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