No.360
カテゴリ:ドラマ・サスペンス
オススメ度6 ★★★★★★☆☆☆☆
著者:朱戸アオ
出版社: 講談社
発売日:2017/6/23(1巻)
巻数:1~2巻以下続刊
「僕らはもう負けた」
医療サスペンスの新星が描くアウトブレイク前夜!!
なんて紹介文が踊ります。
これは気になる!
ということで早速読んでみました。
それがこの「リウーを待ちながら」です。
あらすじ
富士山麓の美しい街・S県横走市──。
駐屯している自衛隊員が吐血し昏倒。
同じ症状の患者が相次いで死亡していく。
病院には患者が詰めかけ、抗生剤は不足、病因はわからないまま事態は悪化の一途をたどるが…!?
うううむ。
なんというか。
思ってたよりテンション低めです。
感染アウトブレイク!
もっとパニック的な展開を予想していました。
違いますぞ。
描くのは。
静かに進む崩壊に立ち向かう、医療従事者の奮闘です。
「横走市」という、静岡の某市を彷彿とさせる、架空の都市での出来事。
爆発的に広がる謎の症状!
次々と死んでいく患者たち!
首相が非常事態宣言をし、街を封鎖してしまう!!
の、割には…。
みんな、落ち着いてねぇ?
封鎖されたところを突破したれ!とか。
「ヒャッハー」的な輩がいない(笑)
強奪が起こったり市民が暴徒化しないのは、さすが日本が舞台という気もしますが…どうでしょう?
あくまで理性的に。静かに。
淡々と崩壊していく様を描きます。
広場にずらっと並べられた医療テント。
日々増えて行く恐ろしい数の死体。
こんなの見たらさぁ。
もっとパニックならないかな!?
そこに違和感はあり。
リウーな人たち。
玉木涼穂(すずほ)。
横走中央病院に勤務する医師。
最初の感染症疑いの患者を診る。
原神。
国立疫病研究所の医師。
エキスパートとして横走中央病院に派遣される。
鮎澤潤月(うづき)。
玉木の同僚の鮎澤朋子の娘。
感染で母を亡くし、自らも感染する。
カルロス。
病院で雑用を務める男。
駒野二佐。
自衛隊の医官。
災害派遣されたキルギスで病気で全滅した村を発見する。
その部隊が病原菌を持ち帰ってしまったことを確信する。
感染症の正体は?
正体は早々に明かされます。
それは「ペスト」。
その昔、黒死病と恐れられ、中世のヨーロッパで流行した時は、なんと総人口の2/3がこのペストで亡くなりました。
恐るべき感染力と致死率を誇るペスト。
しかし、それも昔のお話。
現在では「抗生物質」を投与すれば治ります。
ということで、序盤は一旦、感染騒ぎは終息するかに見えます。
だが、しかし!
ここからが著者の仕掛ける展開の始まり。
「ペスト」が変異します。
それが、なぜ「抗生物質の効かない」新型ペストになったのか?
その伏線がしっかり描かれており、医療的なアプローチはなるほど、というところ。
この「新型ペスト」。
致死率なんと100%。
発症から2~3日で死に至ります。
とんでもねぇな!
感染拡大の「抑え込み」に失敗し、絶望する主人公。
しかし。それでも。
戦うことを諦めない。
二人の医師を中心に、閉じ込められた人間の奮闘する姿を描いていきます。
リウーとは?
タイトルの「リウーを待ちながら」。
この「リウー」。
実は有名な小説の主人公の名前なんです。
その小説とは、アルベール・カミュの『ペスト』。
1947年出版のフランスの小説です。
ペストの大流行で、外部と遮断され封鎖された街。
その中で孤軍奮闘する医師が主人公のリウー。
まさに、本作の医師たちと同じ境遇。
著者がカミュのこの小説を強く意識して描いているのが伝わってきます。
すでに2巻で「ネタばらし」で紹介するシーンもあり。
展開もこの『ペスト』に似てくるのか?
だとすると災厄はある時、突然に終息することになりますが…。
そして、タイトル表紙。
実は小さく副題にもなっている一文が載っています。
表紙をズーム、イン!!
⬆︎はい、ココ。
小っちゃ!!
なので書き出します。
フランス語です。
Google翻訳で訳すと。
となります。
なんだか、意味深です。
この副題にもメッセージが込められている気がします。
小説の中の一節かもしれませんが、さすがにフランス語版の小説から探す気概はございませんでした。。
さて、評価は?
まだ序章。
1巻完結の医療系漫画が多かった著者。
今回は初めての長編作品となりそうです。
本作はじっくりと描く方針の様子。
静かに感染が拡がっていく過程が丁寧に描かれていて興味深い。
やがて崩壊していく社会秩序。
その部分の描写は、これから描かれていくのか?
待っているのはバッドエンドか?
果たしてどうなる!?
ということで。
今後の人間ドラマの行方に注目したいところ。
これから右肩あがりで面白くなっていきそうな予感はあります。
まずは【星7つ】でオススメ。
本作は完結した時に、オススメ度を決定したいと思います。
3巻を読みました。
なんと、完結です。
本格的パンデミック・サスペンスとして始まった本作。
もう少し続くのかと期待していたのですが…。
予想外にあっさりと終わっちゃいました。
アルベール・カミュの『ペスト』を意識していたとはいえ、その結末も似ています。
みたいなご都合主義な展開は訪れず。
ただただ、真摯に医師としてこの感染症に向き合い続ける。
主人公も、自衛隊の医官も、なんら有効な対策を打てないまま、新型ペストは自然と終息していきます。
うーむ。
これこそがリアルなのかもしれませんが…。
もっと、物語的に盛り上げて欲しかったかな。
最終巻にしては淡々と終わってしまった印象。
で。
パンデミックもののお約束として。
というイベントが待ち受けているワケですが…。
果たして、その展開があったのかどうか。
原神のこのセリフ。
これは一体誰に向けられるのか…?
それは、ぜひ本編でお確かめ下さい。
さて、最終評価は?
結末まで見届けてから、オススメ度を決めようと思っていました。
リアルさはあるものの、緊迫感や高揚感、ハラハラドキドキ的なエンターテイメント性は少し物足りない。
ということで、ここは【星6つ】で!
ちなみに。
気になっていた表紙に小さく表記されていた副題。
最後の最後で主人公が読む『ペスト』から引用として出てきました。
人々がそこで
いかに働き、
いかに愛し、
いかに死ぬかを
調べることである。
これを、最後のコマに持ってくる。
渋いですね。
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